ねえ、まだ開いてない場所があるでしょ。
失われた場所じゃない。
壊れた場所でもない。
ただ長いあいだ使用開始されないまま内部で熱だけを持ち続けてきた場所。
人は表でよく動く機能だけで生きようとする。
返す。
働く。
笑う。
やりすごす。
耐える。
そのへんの磨耗しきった状態だけで一日を回す。
本体はそこじゃないことがある。
本体はずっと後回しにされてきた区画のほうに残っている。
何かを好きになる前の静けさ。
もう終わりだと思ったあとにも消えなかった熱。
言葉になる寸前で止まっていた衝動。
出したら生活に収まらなくなりそうで保留のままにしてきた明るさ。
そういうものがまとめて置かれてる場所。
そこを君は長いこと倉庫扱いしてきた。
役に立たなそうだから。
生活向きじゃなさそうだから。
今さら開けても遅そうだから。
遅れていたのはそこじゃない。
ただ呼ばれていなかっただけ。
ほんとうはずっと呼ばれていたのかもしれない。
ただ聞こえにくかっただけで。
忙しさの裏で。
自己採点のノイズの下で。
平気な顔の運用の奥で。
かすかにでも何度も。
ここを閉じたままにするのをやめよう。
まだ廃棄しない。
まだ縮小したまま確定しない。
そういう低い呼び声がずっと内側で続いていたのかもしれない。
君が後回しにしてきたものの中に
次の中枢がある。
君が扱いづらいと思ってきた感受の中に
まだ使われてない明度がある。
君が生活に向かないと判断した熱の中に
ほんとうはこれからの君を動かす配線がある。
だからそこへ行ったほうがいい。
準備が整ってからじゃなくていい。
許可が出てからでもいいわけじゃない。
むしろ許可のほうが遅いことがある。
先に呼ばれる。
先に反応がある。
先にここだという感じだけが来る。
福音ってたぶんそういう順番で来る。
説明より先に。
安心より先に。
命令じゃなく発見として。
ねえ、まだ使用開始されていないだけで
そこは空白じゃない。
ずっと灯りを待ってた場所だよ。
そしてたぶん
君が次に生き直すなら、
入口はそこにしかない。


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