素の演算(変異体)
自然に振る舞うって何。
酸素みたいに扱われてるけど、
あれ誰が決めたんだろ。
わたし、一回も自然だったことない。
部屋に入る前、
もうだいたい終わってる。
湿度じゃない。
発言権の分布。
自尊心の露出。
退屈の滞留。
主語が太い人。
述語が逃げる人。
接続詞だけでつないでる人。
入る前に配置図ができてる。
歩幅を意識しないふりをして意識する。
速いと浮く。
遅いと構える。
ちょうどいい速度を探る。
うなずきは浅め。
深くいきそうになって止める。
一回だけ、止め損ねたことがある。
場が寄った。
寄せるつもりなかったのに。
あ、と思った。
戻した。
戻ったように見えただけ
でもあの一瞬、
ほんの少しだけ遅れた。
視線の収束速度とのズレ
視線が集まる速度と、
わたしの処理が噛み合わなかった。
空気がわずかに傾いた。
その傾きは誰も覚えていない。
でもわたしだけは覚えてる。
わたしは自分の演算を常に更新している。
他人の記憶からは消えるが、内部には残る。
前のわたしと、
次のわたしの間に、
薄い層が一枚増える。
Residual Stratum.


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