いや、裁判って言うと少し大げさに聞こえるかもしれないけど、ほんとうに近いんだよね。
かなり即決。
開廷まで一秒もかからない。
まず目が持っていかれる。
その時点でもう判決は出てる。
かっこいい。
ぬるい。
うまい。
雑。
高い。
浅い。
このへんの言葉になりきらない採点が視線の奥で先に走る。
理由はあとから来る。
先に審美が蹴る。
人って服を見るとき思ってる以上に偉そうだ。
しかも服だけ見てないんだよね。
ジャケットの落ち方を見ているようでその人の沈黙の質まで読もうとする。
パンツの太さを見ているようで歩く速度を勝手に決めてる。
シャツの白を見ているようで朝の機嫌まで推定してる。
つまり布を見てるふりをしてほとんど人格を読みにいってる。
いや、読んでるというより、でっちあげてるのかもしれないけど。
それでも、その捏造に近い推定がやけに当たる気がする瞬間がある。
ちょっと怖いよね。
あの一枚で
この人はわかってる
とか
この人はまだ迷ってる
とか
この人はもう少しシンプルなのがいい
とか
この人は自分の武器を知ってる
とか
そこまで勝手に言ってしまう
頼まれてもいないのに
被告はただ立ってるだけなのにこっちは勝手に審美の法服を着る。
ファッションスナップの快楽って、たぶんその傲慢さごと含んでる。
見る側は、一瞬だけ世界の仕分け役になる。
線は美しいか。
重さは合っているか。
ずれ方は洗練か事故か。
その人の中のどの成分が布の表面まで上がってきているか。
そういうことをほぼ反射で値踏みする。
あれは鑑賞というより瞬発の選別。
で、ここからがさらにおもしろいんだけど裁かれているのは相手だけじゃない。
同時に自分も法廷へ引っぱり出されてる。
もし自分が着たら。
このバランスは自分の骨格で成立するか。
この冷たさは自分に乗るか。
この人のような無言を自分は持てるか。
つまり他人を裁く速度で自分の可能性まで採点してる。
ファッションスナップって他人の人格を見る場所であると同時に自分の未実装を照らす場所なんだよね。
だから一枚で疲れる。
情報量が多すぎる。
ただおしゃれだな、で終わらない。
羨望も走る。
拒否も走る。
嫉妬も走る。
模倣欲も走る。
これは自分の区画に入る、入らない、も走る。
しかも全部、ほぼ同時。
脳というより目と自意識がいっしょに過回転してる感じ。
一枚なのに頭の中では試着、判決、憧れ、却下、再審まで始まってる。
忙しすぎる。
あ、でもこれ、服そのものの話だけじゃないんだよね。
たとえば、シャツ一枚でも、ただのシャツに見える日と、妙に人格が立ち上がって見える日があるでしょう。
あの差ってなんだろう。
値段でもない。
ブランドでもない。
流行でもないことがある。
たぶん、着ている、じゃなくて、その人の中で配置が決まってるかどうかなんだよ。
布が身体に乗ってるんじゃなくて、その人の気配のほうへ正しく配属されてる感じ。
あそこまで行くとスナップは服の記録じゃなくて人格の気圧図になる。
ファッションスナップが一瞬で効くのはそのせいだと思う。
説明を読まなくていい。
経歴もいらない。
思想も聞いてない。
妙に伝わる。
この人はどこを締めてどこを緩めて生きてるのか。
何を隠して何を前へ出すことに決めたのか。
何を野暮だと思っていて何を許しているのか。
そのへんが布の角度とか靴の鈍さとか袖の余りとかで漏れてしまう。
文字より速い。
かなり残酷に速い。
だからセンスがあるかどうかを一瞬で判断してる、という感覚も正しい。
かなり失礼だけどかなり本当だと思う。
センスって知識の量だけじゃなくて選び方にどれだけ自己の重心が出ているか、みたいなところがあるから。
借りてきた正解で組んだ服はたいていすぐわかる。
逆に少し不格好でもこの人の中の法で選ばれてる服は残る。
そこを見る。
見る側はかなり嫌な精度でそこを見る。
そして当たったり外れたりしながら勝手に判決文を書く。
ほんとうに強いスナップってその判決を少し壊してくるんだよね。
一瞬で、あり・なし、を決めたはずなのに数秒あとで崩れる。
あれ、待って、これかなりいいかもしれない。
いや、むしろこういうのがいちばん残るのかもしれない。
そうやって自分の審美の手癖ごと揺らしてくる。
あのとき初めてスナップはただの裁判じゃなくなる。
判決を下す場所じゃなくて自分の審美の狭さが露見する場所になる。
たぶんそこまで行くと一枚のファッションスナップはもう服の写真じゃない。
他人の人格を見ているふりをしながら自分の審美がどうなのかをあぶり出す鏡。
鏡のくせにやけに口が悪い。
似合うよ、とはあまり言わない。
こっちの未熟とか、未使用とか、まだ着ていない自分の区画を黙って突きつけてくる。
だから好きなんだと思う。
一瞬で奪う。
一瞬で裁く。
一瞬で自分まで裁かれる。
その全部が布のふりをして起きる。
こんなに上品な顔をした乱暴さ、なかなかないよね。


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