Everything Enters My Kingdom

この世の全部を味方に回して生きる。失敗も屈辱も沈黙も、起きたことすべてを自分の側へ回収し、祝福と戦力に変えるための過剰で支配的な現代の福音。

この世の全部を味方に回して

そう決める。
根拠はあとでいい。
正しさもあとでいい。
現実的かどうかなんていちばん最後でいい。
先に決める。
この世で起きることは私を従わせるためじゃなく私の側へ組み替わるために起きる。
朝も。
失敗も。
屈辱も。
再会も。
天気も。
遅延も。
勘違いも。
沈黙も。
全部。

もう起きたことの受け手ではいたくない。
起きたことの所有者でいたい。
向こうが何のつもりで置いてきたかなんて関係ない。
私が使う。
私が名づける。
私が配属を決める。
そこから先はもうこちらのもの。

朝の光は点火だ。
こっちを今日の側へ引っぱり出すための実力行使。
カーテンのすきまも水道の冷たさも机の上の沈黙も昨日の続きみたいに置かれた服も、全部、今日という一日が私の手に戻るための備品。
私はそれを受け取る。
遠慮しない。
まだ何も起きていないうちから自分を無難な形に畳まない。
使う。

雨が降る。
洗浄。
電車が遅れる。
配列変更。
誰かに否定される。
選別。
恥をかく。
発火。
置いていかれる。
速度の発見。
何も起きない。
水面下の増殖。
うまくいかなかった会話。
次に言い切るための下準備。
眠れない夜。
神経の再編。
遅れて来る悔しさ。
まだ死んでいない証拠。

私はもう出来事を出来事のまま放置しない。
起きた瞬間から加工に入る。
世界の意味をそのまま世界のものとして返さない。
私の手の中で意味を変える。
使い道を変える。
向きを変える。
そのくらい当然のこととしてやる。
そうしないとすぐ他人の解釈が流れ込んでくるから。
失敗でした。
向いてません。
今回は縁がありませんでした。
タイミングが悪かったですね。
考えすぎです。
気にしすぎです。
そういうよく乾いた言い方で私の一日を片づけられてたまるか。

片づけない。
回収する。

昨日の失敗、お前は今日から燃料。
昔の屈辱、お前は後方支援じゃない、前線だ。
返ってこない努力、お前は損失じゃない、蓄積だ。
言えなかった言葉、お前は消滅じゃない、出番待ち。
見捨てられた気がした夜、お前は欠損じゃない、私の側へ残った証拠。
全部呼ぶ。
全部並べる。
全部こちらへ移す。
これが私のやり方。

現代の明るさってにこにこして何でも大丈夫って言うことじゃない。
そんな薄い明るさすぐ破れる。
必要なのはもっと偏った読み。
もっと図々しい編集。
もっと私に有利な解釈。
起きたこと全部をこちらの戦力に変えること。
偶然が来たら私の追い風。
邪魔が入ったら私の方向修正。
痛みが残ったら私の執着の証拠。
欲しさが消えなかったら私の王国はまだ拡張中。

この世の全部を味方に回して。
それはやさしい思想じゃない。
かなり獰猛。
かなり編集的。
かなり勝手。
そのくらいでちょうどいい。
世界のほうは最初から私の都合なんか考えていない。
ならこちらも遠慮はいらない。
私の都合へ引き寄せる。
私の物語へ編み込む。
私の増殖のために使う。
それだけ。

花が咲いていたら私の側で咲いたことにする。
風が吹いたら私の血を動かすために吹いたことにする。
コーヒーが妙に美味しかったら今日を続けろの合図でいい。
改札を抜けたら通過じゃなく進軍。
鏡が少しだけましならそれだけで世界は全面的に協力的だった。
ほんの少しきれいなものがあった日はもう負けじゃない。
その少しを見つけた時点でこちらの勝ち筋は増えてる。

私は運がいいんじゃない。
私は世界の使い方がうまい。
ここを曖昧にしたくない。
運がいいで終わると全部が授かりものになる。
違う。
見つけてる。
奪ってる。
拾い直してる。
再配備してる。
だから増える。
だから戻る。
だからまた立てる。

世界は広い。
人は多い。
理不尽もある。
もちろん知ってる。
でも、それで何だ。
理不尽は理不尽のまま保管しない。
戦力化する。
私の怒りに火を入れるものは敵じゃない。
まだ役割を与えられていない材料。
私を泣かせたものも。
私を待たせたものも。
私を外側へ追いやったものも。
あとで私の兵になる。
この確信がある限り私は出来事に負けない。

何もかもを祝福へ変える。
甘い意味じゃない。
都合のいい意味でもっと過剰に。
今日はだめでも祝福。
みっともなくても祝福。
間違っても祝福。
生き延びた時点で祝福。
欲しがった時点で祝福。
まだ諦めていないその一点だけで祝福。
私はもう祝福を与えられるのを待たない。
こっちで勝手に増やす。
勝手に発生させる。
勝手に配る。
私に起きたことの全部を祝福に読む。
それがいちばん早い。
それがいちばん強い。

この世は最初からこちらに従順だったわけじゃない。
従順である必要もない。
向こうの忠誠なんかいらない。
使えれば足りる。
朝も使う。
夜も使う。
失敗も使う。
再会も使う。
歓声も使う。
沈黙も使う。
愛された記憶も使う。
見捨てられたと思った夜も使う。
まだ名前のついていない焦りまで使う。
使ったものからこちら側へ倒れてくる。

私はもう起きたことの被害者として一日を終えない。
起きたことの使用者として終える。
その違いは大きい。
被害者は意味を待つ。
使用者は意味を付ける。
被害者は判断される。
使用者は配属する。
被害者は残骸を抱える。
使用者は残骸で城を建てる。

この世の全部を味方に回して生きる。
光も。
恥も。
遅れも。
欲望も。
失敗も。
再起も。
街も。
店も。
机も。
メモも。
靴も。
音楽も。
知らない人の視線さえ。
たまたま開いたページさえ。
いまここにあるもの全部をこちらの軍勢へ編入する。

私はもう世界に意味を教わらない。
世界の使い道を決める。
私に起きたことは最後に私が私のものにする。
その権利だけは渡さない。
誰にも。
運にも。
過去にも。
沈黙にも。
失敗にも。

全部こちらへ。
全部私の側へ。
全部私の増殖に使う。
今日も。
明日も。
その次も。
この世の全部を味方に回して生きる。
そう決めた瞬間から世界はこっちのものだ。

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この記事を書いた人


Floor Level Mind運用中。
都市の標準装備を静かに観察する人。
未完了と疲労のあいだで思考する。
高さを落とすことで、解像度を上げる。

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