「いつか行こう」と思っている時、その場所までの電車は、ただ路線として走っている。自分が乗る一本には、まだ時刻が入っていない。起床時刻は空欄。雨も晴れも、その日を持つ前。待ち合わせ場所も、帰宅時刻も、翌朝も空欄。そこには行き先と「行きたい」だけがある。「いつか行きたい」と言う時、人は一日を選ばずに、行き先だけを選べる。
「じゃあ来週の日曜に行こう」と日曜日を一つ置く。朝ができる。何時に起きるかが必要になり、電車に時刻が入り、片道に分数がつく。雨がその日に降れるようになり、混雑が関係し、服を選び、昼を考え、帰宅時刻の後ろに月曜の仕事がつく。日曜という一語が、朝から翌朝まで連れてくる。日付には、電車も天気も月曜日もくっついているらしい。
金曜日にも同じことが起きる。水曜から見れば二日先、木曜から見れば一日先、金曜になれば今日、土曜になれば昨日。10月18日も、誕生日も、歯医者の予約も、締切の23時59分も、こちらへ向かってくる。カレンダーの中に場所があるから、時間が進むだけで距離が変わる。嫌な会議まで律儀に来る。予定というものは、こちらの気分より先に日付を持っている。
では、「いつか」はどこにあるのか。カレンダーを一年先まで送る。月曜、火曜、水曜、木曜、金曜、土曜、日曜。祝日もある。五年先まで送る。月と日と曜日が続く。十年先にも日付が並ぶ。「いつか」というマスだけ、どこかに隠れている感じがする。それでも「いつか行きたい」と言えば、確かに先の方を指している。
10月7日。「いつか行きたい」。10月8日。「いつか行きたい」。一日進んだ。金曜日なら一日近づく。10月18日なら残り日数が一つ減る。「いつか」は、昨日と同じ文のまま今日にも置ける。10月7日の時には10月8日以降が入る。10月8日になると10月9日以降が入る。昨日まで候補だった10月8日は、今日という名前をもらって外へ出る。明日には10月9日も同じことをする。「いつか」の文字はそのまま、入れられる日付だけが毎日一枚ずつ入れ替わる。
「いつ?」と聞くと、日曜、と答えられる。「いつ?」。10月18日。「いつ?」。15時。答えが入るたび、問いは閉じる。「いつか」は少し変わっている。「いつ?」に日付を入れる代わりに、その空欄ごと文の中へ持っていける。「いつか行きたい」。行く日は空欄のまま、行きたいだけは文として完成する。
その空欄へ日付が入る瞬間、「いつか」という名前は外れる。来週の日曜に行くなら「来週の日曜」。10月18日なら「10月18日」。15時に待ち合わせるなら「15時」。「いつか」が実際の一日に着く時、到着と改名が同時に起きる。カレンダーに並ぶのは改名後の方だけ。何年先までめくっても見えてくるのは、日曜、18日、15時、そのほかの日付。探していた「いつか」は、日付になった瞬間から別の名前で載っている。
この違いは、過ぎたあとにも残る。映画のチケットには上映時刻がある。予約には予約時間がある。締切には23時59分がある。その時刻を越えると、前と後が分かれる。「いつか行こう」には、その境目を書く欄が最初から空いている。先月が終わる。今年が終わる。カレンダーは次へ進む。「いつか」は、その先の空欄へ同じ文字で置ける。
「行かなかった」。
「まだ行ってない」。
起きたことだけ見れば、どちらにも「行った」は入っていない。前者には終わった期間がある。後者には「まだ」がつく。「まだ」がつくと、来月も来年も文の外へ追い出されずに残る。去年も行ってない。今年も行ってない。それでも「まだ行ってない」は同じ形で続く。「まだ」には何年目という表示がつかない。
2016年10月7日。「いつか行きたい」。この時、その「いつか」には2017年の土曜も入れられた。2018年の火曜も、2019年の連休も、2020年の雨の日も、2021年の給料日の翌日も、2022年の何も予定が入ってない午後も入れられた。2023年、2024年、2025年の春、2026年10月6日まで、全部その時点では「いつか」の側にいた。その一日一日が実際の日付になり、曜日を持ち、天気を持ち、朝から夜まで使われて、カレンダーの後ろへ移った。
2026年10月7日。「いつか行きたい」。同じ文を置ける。2016年には入れられた2019年の土曜も、2020年の雨の日も、2022年の空いた午後も、昨日も、今の「いつか」には入らない。十年分の日付が文の中から抜けた。それでも文字数は同じ。「いつか」に使用開始日はつかない。何年前から使っているかも文面には出ない。今日初めて言った「いつか」と、十年前から言っている「いつか」は、同じ三文字で先を指す。
2016年10月7日。「いつか行きたい」。
2026年10月7日。「いつか行きたい」。
日付を外す。
「いつか行きたい」。
「いつか行きたい」。
































