大学生が何か始めたいとき|自分を何ヶ所か試せる時間は、意外と短い
大学生には、少し変わった自由がある。
まだ何者かを決めきっていなくても、それほど不自然に見られない。
経済学部にいる人が写真を始めてもいい。文学部の人が映像を作ってもいい。就職するつもりの人が半年だけ音楽をやってもいい。ずっと見る側だった人が、急に人前へ出てもいい。
三か月でやめても、そこまで大事件にはならない。
この状態は、かなり特殊だと思う。
高校までは学校と家庭の影響が強い。卒業して働き始めれば、今度は仕事の時間が一日の中心に入ってくる。
大学生はその間にいる。
授業はある。単位も必要。お金も無限にはない。就活も近づいてくる。
それでも、自分の時間を少し変な場所へ持っていける。
自分を何ヶ所かに仮置きできる。
この自由は、かなり使い道がある。
大学生になると「将来のために何をするか」を考える機会が増える。
資格を取る。インターンへ行く。TOEICを受ける。就活に使える経験を作る。
もちろん必要ならやればいい。
ただ、大学にいる数年間を全部「将来使えるものを準備する時間」にすると、少しもったいない。
将来に使えるかどうかなんて、始める前にはかなり分からないから。
むしろ大学生のうちに価値があるのは、
まだ用途の分からないことを試せること。
写真を撮る。
写真を撮られる。
DJをやる。
小さなイベントを作る。
文章を公開する。
映像を一本作る。
知らないジャンルの音楽を聴く。
服を作る。
店を一日だけやる。
人前に立つ。
何かの名前を付けて外へ出す。
そのうち九個が続かなくてもいい。
十個目だけ、なぜか残るかもしれない。
「続かなかった」を失敗として数えると、試せる数が一気に減る。
一か月やって違った。
それは一か月で一つ消せたということでもある。
半年やったら、思っていたより好きだった。
それなら半年後から少し深くやればいい。
最初から十年続けるものだけ選ぼうとすると、まだ何も知らない自分に、未来の自分の予定まで決めさせることになる。
かなり無茶だと思う。
大学生の強さは、正解を知っていることではない。
正解が分からない状態のまま、何回か試せること。
しかも試すと、自分についてかなり変な情報が返ってくる。
人前に出るのが苦手だと思っていたのに、ステージだけは平気かもしれない。
写真が嫌いだったのに、撮る人が変わると急に面白くなるかもしれない。
喋るのが得意だと思っていたのに、文章の方がずっと強いかもしれない。
自分では大したことがないと思っていた服の選び方を、周りだけがやたら覚えているかもしれない。
自己分析を何時間やっても出てこない情報が、外へ一回出しただけで返ってくることがある。
たぶん人は、自分だけでは自分を全部測れない。
場所を変えると、測定結果まで変わる。
大学では目立たない。
バイト先でも特に何も起きない。
それでもカメラの前では異常に残る人がいるかもしれない。
逆もある。
SNSでは強いのに、別の場所へ行くと急に何も起きないこともある。
だから試す。
自分を信じるためというより、
自分についてまだ持っていないデータを取りに行く。
それくらいの感覚でいいと思う。
GlassRoomでアイドルについて考えていると、この大学生の時間はかなり気になる。
アイドルという言葉を、自分に一度も使ったことがない人がかなりいるから。
小さい頃から憧れていたわけではない。
オーディションを探したこともない。
歌やダンスを仕事にしたいわけでもない。
就職するつもりかもしれない。
それなら、そのままでいい。
こちらが気になるのは、その状態の人を一度だけ別の場所へ置いたら何が起きるかだ。
一回撮る。
一回出る。
一度だけ名前を外へ置く。
それを誰かが見る。
何も起きなければ、それもデータになる。
何かが残れば、次がある。
You’re an idol when someone sees you once and wants to see you again.
一度見た誰かが、もう一度見たいと思ったら、だいぶアイドル。
GlassRoomでは今のところ、それくらいから考えている。
だから「アイドルになる覚悟がありますか」と最初に聞くことには、あまり興味がない。
まだ一回もやっていない人に、何年分もの覚悟を提出させても仕方がない。
一回やる。
何が起きたか見る。
またやりたければやる。
誰かがもう一度見たがれば、さらに面白くなる。
その順番で十分だと思う。
だから、ここまで読んで
「アイドルは自分には関係ない」
と思っている大学生がいたら、その判断を急いで確定しなくていい。
こちらから見ると、
アイドルを目指してこなかったことも、
歌ったことがないことも、
まだ何になりたいか決まっていないことも、
それだけでは候補から外れる理由にならない。
むしろ、大学まで一度もその場所に置かれたことがないなら、
こちらは一回くらい置いてみたい。
あなた自身がまだ見たことのない反応が返ってくる可能性があるから。
大学生には、学生証がある。
所属を証明するためのカードだけど、
もう一つくらい意味を勝手に足してもいいと思う。
まだ完成していなくていいという期間限定の許可証。
卒業するまでに、正しい自分を一つ見つけなくてもいい。
写真の自分。
作る自分。
出る自分。
売る自分。
書く自分。
何もしない自分。
何ヶ所かに置いてみて、そのたびに違う反応を回収すればいい。
就職すると、社会から「あなたは何をする人ですか」と聞かれる回数が増えていく。
大学生のうちは、まだ答えを一個にしなくていい。
だから何か始めたいなら、
将来役に立つかだけで選ばなくてもいい。
一度も置いたことのない場所に、自分を置いてみる。
そこで返ってきた反応は、
就活サイトの適性診断より、
たぶん少しだけ信用できる。

