選び終われなかったあなたへ

選び直せる自由のなかで、消えなかった未来、評価される時間、記録された自分、保留された人格に追われ続ける感覚を言葉にする。自分として生き始められない疲れの正体を見つめる文章。

あなたは何度か自分を変えようとしたはず。環境を変えれば自分も変わると思った。仕事を変えれば、住む街を変えれば、人間関係を変えれば、ようやく自分に合った毎日が始まると思った。その考えは間違っていない。実際、選び直せるものは昔よりずっと増えた。だから苦しい。選択肢が増えたからではない。選ばなかった未来が消えなくなったから。昔、決断は一つの未来を終わらせる行為だった。今は違う。選ばなかった仕事も、行かなかった街も、始めなかった人生も、どこかで続いているように見えてしまう。だから決断したあとも終われない。あなたは今いる場所だけではなく、行かなかった場所からも見られ続けている。

時間も同じ。ただ過ぎることが許されなくなった。何を得たのか。何を学んだのか。その一日は意味があったのか。休んだならちゃんと回復できたのか。何もしなかった日はそれだけで説明を求められる。時間は流れていくものではなく評価されるものへ変わった。疲れているのは忙しいからではない。一日を生きるたびに一日分の証明まで引き受けているから。

昨日の自分と比べているようで本当に比べている相手は昨日のあなたではない。記録されたあなた。歩数、睡眠時間、体重、売上、勉強時間、閲覧数。数字になった自分は事情を持たない。眠れなかった夜も、誰かを支え続けた一日も、そこには残らない。残るのは結果だけ。そして結果は次の日の基準になる。昨日できたことは今日もできて当然になる。人は過去の自分に負けるのではない。事情を失った自分の記録に追い立てられる。

読んでいない本を捨てられない理由は本への未練ではない。それを読める自分をまだ諦めていないから。始めなかった勉強も、行かなかった場所も、途中でやめた趣味も同じ。残しているのは物ではない。そこへ向かうはずだった自分。だから保留は減らない。時間が経つほど実現しなかった未来だけが静かに積み重なっていく。

何かを買うたび何かを始めるたび、あなたは物を手に入れているようで次の自分を予約している。この服を着れば。この知識を身につければ。この習慣が続けば。市場は完成した人には興味がない。いつももう少しで完成しそうな人を相手にする。だから未完成であることは解決されない。改善は終点ではなく次の改善を始める資格になる。気づけば自分を育てることより自分を完成させないことのほうが長く続いている。

情報は増えた。説明も増えた。何でも公開されるようになった。それなのに本当に大事なことは見えにくくなった。隠されたからではない。読むべきものと読まなくてもいいものが同じ重さで並ぶようになったから。理解できなかったとき原因は情報を出した側ではなく、読み切れなかったあなたへ戻される。真実は消えない。ただ見つけるために必要な労力だけが増えていく。

考えることも難しくなったわけではない。一つのことを考え終わる前に次の話題が届く。怒り切る前に別の事件が始まり悲しみ切る前に新しい映像が流れてくる。だから思考は浅くなったのではなく終わりを失った。結論まで辿り着けなかった問いだけが心の中へ残り続ける。

こうしてあなたの中には終わらなかったものが増えていく。消えなかった未来。証明し続ける時間。記録された自分。保留された人格。完成しない自己像。読み切れない情報。考え終わらない問い。それぞれ別の問題に見えるかもしれない。でも最後には一つの感覚へ集まる。

今の自分ではまだ決めてはいけない。

その感覚だけ静かに残る。

だからあなたは自分を嫌いになったわけではない。

ただ自分として生き始める許可がいつまで経っても下りない。

Written by stilloperable

GlassRoom
ToBeAlive Project

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GlassRoom / ToBeAlive Project

人がすでに持っている価値を、他人の場所で消費させず、自分の名前に残すための設計と文章。

アイドル、ブランド、仕事、選択について扱っています。

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