アイドルにはたぶんなれる。歌もダンスも始めてから覚えればいい。写真を撮られる。人前に立つ。名前を呼ばれる。やったことのないものばかりだけど始めればそのうち身体の方が覚える気がしている。困っているのはチェキだ。撮ったあとに名前を書く。日付を書く。相手の名前を書く。その日話したことを短く残す。ハートを描く。星を描く。何か足す。ライブは何とかなる気がする。右上3センチが何ともならない。
字がかなり汚い。昔どこかで「字が汚い人は言葉を覚えるのが速かった」みたいな話を聞いたことがある。正しいかどうかは調べていない。調べて否定されたら困るから。いまのところ私の中では字が汚いのではない。幼少期の言語能力がボールペンを置き去りにした。ことになっている。
チェキはサインだけ書けば終わるわけではないらしい。名前。日付。短いメッセージ。ハート。星。猫らしきもの。今日だけの小さな記号。目の前には撮った相手がいる。喋っている。こちらも返事をする。次の人も待ってる。その状態で写真の小さな一角へ「今日この人と会った私」を数十秒で置いていく。写真よりそのあとに発生する手作業の方が具体的だ。
撮影が終わった瞬間チェキはまだ完成してない。白いところが残っている。名前を書く場所にもできる。ハートを置く場所にもできる。何も決めなければただ白い。写真全体はもう撮れているのに、右上3センチだけがまだ誰のものでもない。そこだけ未割当になっている。
相手の名前が漢字だったらどうする。聞きながら書いて一本足りなかったらどうする。白ペンを選んだ日に限ってインクが出なかったらどうする。喋りながら昨日の日付を書いたらどうする。「今日はありがとう」の次を考えている間にも相手はまだ目の前にいる。会話は止めたくない。ペンも止めたくない。手元だけ忙しい。
ハートを毎回同じ場所に描けばそれはそのうち私の描き方になるのかもしれない。三回続ければ定番。五十回続ければサインの一部。最初の一回だけを見れば単に他のものが思いつかなかった可能性もある。星を増やせばいいのか。線を一本引けばいいのか。右上3センチの中で個性と手抜きの境界まで発生してきた。
アイドルになるかどうかという話の中には、歌もある。ダンスもある。衣装もある。ステージもある。知らない人に名前を覚えられることもある。それなのに今いちばん鮮明に想像できる失敗が右上に描いたハートの左右が揃わないこと。大きな出来事ほどまだ形がなく小さな作業だけ先に手触りを持ってしまった。
アイドルにはたぶんなれる。右上3センチだけまだ決まっていない。
stilloperable
GlassRoomは東京で最初のメンバーを募集しています。
高校生から22歳まで。 未経験でも応募できます。 まだ決めていない段階から送れます。
GlassRoomの募集を見る































