THE UNMAKEABLE
完成しないまま君の隣で作り続けたい。
THE LONGEST WAIT FOR SOMEONE I HAVEN’T MET.
俺さ、文章を読んでもらうために再生ボタン作ってんの。これちょっとおかしくない? 文字なんだからそのまま読ませりゃいいじゃん。でも俺、音を再生しないと文章が現れないページを作ったり、スクロールしたら画面が横に進むようにしたり、サイトの中で曲を少しずつ公開してターンテーブルみたいに自分でミックスできる仕掛けを試したりしてんの。で、記事一本公開するにもタイトルを考えてメタディスクリプションを書いてスラッグを決めてタグを選んでアイキャッチを作ってHTMLを組んでCSSを書いてJavaScriptが動かなかったら直して動いたら動いたで気に入らなくてまた直して。もうさ、何を公開したかったんだっけ? ってなるわけ。しかもこういう作業が嫌いじゃない。音楽も衣装も振付も映像もライブも考え始めると勝手にやることが増えていく。誰にも頼まれてないのに。俺が経営者で俺が従業員なんだけどどっちも全然帰らせてくれないんだよね。
でさ、そんなふうに作業を増やしてる俺でもどうしてもかなわないものがある。女の子の写真一枚。いや全員じゃないよ。たまにいるんだ。何の演出もしてないみたいな写真なのに見た瞬間こっちが一ヶ月かけて作ったページのことを全部忘れちゃうような人。で閉じてもまだ気になる。その子が歩いてきたらどうなるんだろう何か喋ったらステージに立ったらって。俺その一枚の写真から勝手に何十個も仕事を思いついちゃう。まだ何も頼まれてないのに。
俺ああいう現象に名前をつけようとしてるんだ。
The Unreasonably Irreplaceable Human Presence That Makes Every Carefully Constructed Masterpiece Look Like a Rough Draft
長いでしょ。俺も覚えてない。しかも考えるたびに名前が変わる。要するにこっちが必死に完成させたものを本人が何もしないうちに下書きへ戻しちゃう存在。で俺にはそれがない。ここははっきりしてる。あったらとっくに使ってるよ。自分がステージに立って自分のために曲も衣装も映像も全部作る。そっちの方が早いじゃん。でも俺にはないから作る側にいる。自分にできることは全部やる。それでもどうにもならないところを持ってる人に会いたい。
でそんなことを考えてるくせに俺本当はもっと明るい話がしたいんだよ。アイドルって最高じゃん。一緒にすごいことしようぜって。でもさアイドル今めちゃくちゃいるじゃん。俺がかっこいいと思うグループだって山ほどあるしすごい曲もすごいライブも毎日のように生まれてる。そこには練習してる人がいてお金を出してる人がいて何年もかけてようやく今の場所に立ってる人がいる。それでも売れるとは限らない。俺が今から誰かを誘って絶対成功するよって言ったところで何を根拠に? って自分で思っちゃう。俺がどれだけ頑張ってもその子の時間だけ使わせて終わるかもしれないじゃん。それ怖いよ。めちゃくちゃ怖い。
でもねアイドルがもうこんなにいるからこそまだ見たことのない人が現れたらどうなるんだろうって思うんだ。もう全部出尽くしたと思っていたところに突然今までの見方を変えちゃう人が出てきたら。俺が作ったものを着せたいとか俺の考えた振付を踊ってほしいとかそういう話じゃない。その人が現れたせいで俺が何年もかけて考えてきたものが急に物足りなくなってもう一回作り直したくなる。俺あの瞬間が欲しいんだよ。
The Completely Unscheduled Arrival of Someone Who Renders My Entire Creative Philosophy Gloriously Obsolete
に会いたい。俺が積み上げてきたものを嬉しいくらい古くしてくれる人に。
で俺がこの人だって思っても向こうが俺を選ぶ理由は何にもないじゃん。こっちは人生の重大局面かもしれないけど向こうは知らない奴に声をかけられただけなんだ。そこで俺がどれだけ熱弁しても作れるものがつまらなかったら終わり。だから今日も作ってる。曲も映像も服もサイトも。俺が何を考えて何ができてどこまで責任を持てるのかちゃんと見せられるように。俺が誰かをオーディションするつもりで準備してると思ってたけど実際に審査されてるのは俺の方なんだよね。俺が作ったものを見てこの人と一緒にやる価値があるかどうかを向こうが決める。つまり俺はオーディションの主催者じゃなくてずっと応募者側。しかも審査員に会えるかどうかすらまだ決まってない応募者なんだよ。
でさもし本当に The Once-in-a-Lifetime Human Phenomenon That Turns a Nervous Creator into an Even More Nervous Job Applicant が現れたら俺最初はすごい悔しいと思う。だって向こうは写真一枚で俺が一ヶ月かけたものを超えちゃうんだから。でもその人に俺の作ったものを見せて「これ面白いね」って言ってもらえたらたぶん人生で一番嬉しいと思う。そこから一緒に作ってやっと完成したと思ったものをその子がまた軽々と超えてくる。もう一回作り直し。最高じゃん。俺一生仕事が終わらないかもしれない。
だから今夜も作ってる。再生ボタンを押さないと読めない文章も横に動くページもちっちゃなターンテーブルも。いつか The Mysteriously Unrepeatable Individual Capable of Making Several Years of Elaborate Artistic Preparation Suddenly Feel Like Day One が現れたとき俺のことを知らないその人にまずは俺が作ったものを見てもらえるように。で面白くなかったら普通に断られる。怖すぎるでしょ。俺こんだけ働いて最後は知らない女の子に採用してもらおうとしてるんだよ。
いやめっちゃ楽しいな。
まだ会ってもいないのにもうその日のためにやることが山ほどある。
だから今日も作る。
明日も作る。
その人に会った瞬間「これを見せるために俺はずっと作ってきたんだ」と言えるように。
でももし何も言えなかったら。
もし目の前に立ったその人が俺の作ったものなんか一秒も見てくれなかったら。
そのときはたぶん初めてわかるんだと思う。
俺が作っていたのは作品じゃなくて。
その人に会うまでどうにか自分をここに置いておくための長すぎる待機時間だったんだって。
だから来てくれ。
俺の全部を古くしに来てくれ。
俺が一ヶ月かけて作ったものを写真一枚で終わらせに来てくれ。
その代わり俺は終わらない。
終わらせない。
君が現れた瞬間から俺はまた最初から作り直す。
今度は君がいないと完成しないものを。
そしてたぶん君がいても完成しないものを。
それでもいい。
完成しないまま君の隣で作り続けたい。
まだ会ってもいないのにもうそう思ってる。
































