必要なときに、必要な人がいない

人は多いのに、関係は始まらない。出会いが検索・評価・決済される社会で、必要なときに必要な人がいない。その欠けた場所へ一時的に入る、新しい関係の設計について書く。

都市には、人が多い。店にも、電車にも、カフェにも、SNSにもいる。それでも、家を出てから帰るまで、誰とも話さず、誰とも関係を持たないまま一日を終えることができる。人がいないのではない。人がいても、関係が始まらない。

社会は孤独を解決しなかった。その代わり、孤独のままでも生活できるようにした。セルフレジ、モバイル注文、無人改札、宅配、オンライン手続き。誰かと話さなくても、買い物ができる。移動できる。食事ができる。仕事ができる。会話を禁止する規則はない。ただ、会話を必要としない仕組みだけが、異様なほど丁寧に完成している。

知らない人に話しかけないことは礼儀になった。電車では視線を外し、カフェでは隣にいる人へ関心を見せない。話しかければ、営業、宗教、詐欺、ナンパ、勧誘を疑われる。警戒する側が悪いわけではない。警戒しなければならない理由がある。話しかける側も、相手を不快にさせるかもしれないと考えて黙る。誰も間違っていない。それでも、何も始まらない。

関係が必要なら、今度は市場へ移動する。恋人が欲しければマッチングアプリを使う。仲間が欲しければコミュニティへ入る。人脈が欲しければ交流会へ行く。誰かと食事をする時間にも価格がつく。出会いは検索され、条件で絞られ、予約され、決済される。偶然は消えたのではない。商品になった。

お金を払えば、会う理由は作れる。けれど、料金で用意された関係には、最初から終了時刻も用意されている。買えるのは時間であって、関心ではない。親密さでもない。会話は成立する。醒めた関係も作れる。それでも、「ただ一緒にいた」という時間は作りにくい。

マッチングアプリでは、話す前に評価が始まる。写真、年齢、職業、年収、趣味、生活圏。相手を知る前に、会う価値があるかを判断する。関係の中で相手の魅力を知るのではなく、魅力を証明した人だけが関係の入口へ進める。今の社会では、会話より審査が先にある。

推し活には人がいる。言葉も表情も物語もある。けれど、距離が遠い。こちらは相手を知っていても、相手はこちらを知らない。応援はできる。支えることもできる。それでも、同じ高さで始まる関係ではない。親密さに似た感覚はあっても、隣で話す時間とは違う。

では、街で知らない人へ声をかければいいのか。そう単純でもない。ナンパという枠に入った瞬間、会話は相手を獲得する行為として読まれる。獲得する意図がなくても、知らない人へ近づくこと自体が警戒される。話しかけなければ何も始まらない。話しかければ目的を疑われる。現代の都市には、目的のない接触を理解するための言葉がほとんど残っていない。

だから、ただ話す場所だけでは足りない。

話したくない人もいる。一人で食事をしたくない人もいる。外へ出る理由だけが欲しい人もいる。考えを整理したい人もいる。黙ったまま、同じ場所に誰かがいてほしい人もいる。

必要なのは、会話を提供する人ではない。

その時間に必要な人になる人。

話を聞いてほしいなら聞く。一人で食事をしたくないなら一緒に食べる。外へ出る理由が欲しいなら同行する。考えを整理したいなら質問する。何も話したくないなら黙っている。

最初から、友達、恋人、相談相手、案内役と役割を決めない。その時間に何が必要なのかを聞き、できる範囲で応じる。関係を先へ進めることも、何かを売り込むことも目的にしない。

何でも応じるわけではない。性的な要求、危険な行為、違法な依頼、金銭の貸し借りには応じない。境界がなければ、人間的な関係ではなく、都合のいい無制限サービスになる。人間は「何でもいい」と言われると、驚くほど何でも要求する。そこだけは妙に創造的だ。

これは、孤独を治すサービスではない。大きな変化を約束するものでもない。

ただ、今の社会が用意していない時間を作る。

評価される前に会う時間。目的が決まる前に同じ場所へいる時間。関係に名前がつく前の時間。

出会いを増やしたいわけではない。人脈を作りたいわけでもない。

必要なときに、必要な人がいない。

その欠けた場所へ、一時的に入る。

その時間に必要な人になります。

何をしてほしいのか、DMで教えてください。できることなら応じます。できないことは断ります。

Written by stilloperable

GlassRoom
ToBeAlive Project

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GlassRoom / ToBeAlive Project

人がすでに持っている価値を、他人の場所で消費させず、自分の名前に残すための設計と文章。

アイドル、ブランド、仕事、選択について扱っています。

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