アイドルになりたい夜、アンアサイン・タイムが未来を増殖させる。
アイドルになりたい。アイドルオーディションの募集要項を開いて応募条件を読み応募フォームまで進む。そこで手が止まる。仕事と両立できるか。活動に時間を使ったら収入はどうなるか。続かなかったら。その間に今の仕事まで不安定になったら。
画面を閉じたあとも処理は続けられる。この時間をここではアンアサイン・タイムと呼ぶ。
アンアサイン・タイムは外部から注意の行き先を指定されていない時間を指す。返事をする相手がいない。次に処理する仕事もない。移動も終わった。スマホを閉じた。次の数十分について頭へ処理対象が渡されていない。
そこで発生する未配属の処理能力をオープンキャパと呼ぶ。オープンキャパには次に何を処理するかという指定がない頭の中には、まだ終了していない問いがある。
「アイドルを始めたらどうなるか」もその一つになる。この問いには計算終了条件が設定されていない。計算問題なら、必要な数字が揃い手順を進めれば処理は閉じる。答えが出たところで終了できる。アイドルを始めた未来には現在取得できない変数が大量に含まれている。
活動日はどれくらいになるか。仕事との両立はできるか。収入はどう変わるか。人からどう見られるか。自分は続けられるか。グループはどうなるか。半年後にも同じ気持ちを持っているか。
入力は揃っていない。計算は開始できる。一つの未来を作るとその未来の内部から次の問いが発生する。
仕事との両立を考えれば勤務日と活動日の衝突が入ってくる。勤務時間を減らすケースを作れば収入が入る。収入を考えれば家賃や貯金が入る。活動が伸びなかったケースまで進めればその時間を別の仕事に使っていた未来まで計算対象になる。
未来を一つ処理した結果問いが一つ減るとは限らない、枝が増える。十通り考えたあとにも十一通り目を作れる。十一通り目の内部には最初の問いには存在していなかった変数がある。この計算には「全ケースを検討しました」という終了画面がない。
さらに損失を含むケースには追加確認の理由が発生する。たとえば「アイドル活動へ時間を使った結果、収入が減っている半年後」を生成したとする。現在その未来の発生確率は取得できない。発生した場合の損失は計算できる。だからそのケースについて続きを確認できる。
貯金はどこまで持つか。今の仕事へ戻れるか。活動も仕事も中途半端になったらどうするか。周囲には何と説明するか。確認を進めるほど未来の内部資料が増えていく。
最初にあったのは
「アイドルやってみたい」
という短い欲求だった。
その数十分後には、勤務予定、収入、貯金、活動頻度、周囲の反応、失敗後の仕事まで入った半年分のシミュレーションが完成していることがある。現実側の時間も数十分進んでいる。応募はまだしていない。活動日は一日も発生していない。収入も変化していない。周囲の反応もまだ発生していない。頭の中に置かれた未来の情報量だけが大きく増えている。ここには重要な差がある。
未来の具体性と未来の発生確率は別の変数だ。曜日が入り、部屋が入り、残高が入り、人の顔が入り、スマホへ届くメッセージまで入るとその未来は大量の情報を持つ。情報量が増えた未来は頭の中で占有する面積も増える。一時間考えた未来が一分しか考えなかった未来より発生しやすくなる計算式はない。一時間あれば一時間分の内部資料を作れる。人は1分で作った内部資料も次の判断材料として使える。
ここで自己増殖が始まる。未来について考える。内部資料が増える。その資料を読んでさらに確認したい項目が発生する。新しい項目へオープンキャパを投入する。最初の問いが演算資源を獲得しその演算によって自分自身を大きくしていく。アンアサイン・タイムが長くなるほどこの処理に渡せるオープンキャパも増える。
仕事中なら外部から次の処理対象が届く。返事をする。数字を見る。移動する。作業を終わらせる。誰かの話を聞く。注意には配属先がある。その指定が消えるとまだ閉じていない案件がオープンキャパを取りにくる。
金。仕事。人間関係。健康。数年後の自分、アイドルになりたい人ならアイドルオーディションに応募するか。仕事とアイドルを両立できるか。活動を始めて失敗したらどうなるか。自分の選択肢に入った瞬間からこの案件も未処理リストへ追加される。未確定の未来はオープンキャパの使用先としてかなり強い。新しい情報がなくても続きを作れるからだ。
現在取得できない変数には仮の値を置ける。仮の値から別の出来事を生成できる。その出来事から次の条件を作れる。演算を続ける材料を演算そのものが供給する。ここで考えている時間の長さが重量を作る。家賃まで考えた。貯金まで考えた。仕事まで考えた。グループがうまくいかなかった場合まで考えた。
資料が増えるほどその未来は大きな案件として扱われる。その重量の一部は自分が投入した演算時間の重量だ。アイドルオーディションへの応募を一時間考えたあと未来の発生確率は未確定のまま残っている。記述量だけが増えている。
まだ起きていない未来へ事実の代わりに具体性が蓄積している。アンアサイン・タイムでは未確定の問いへオープンキャパが流れる。損失を含むケースが処理順位を取りそのケースについての内部資料が増えていく。この処理には自然な停止位置がない。答えの出ない問いが利用可能な演算資源を使い続けられる。
GlassRoomの募集ページを閉じたあとにも未来はいくらでも追加できる。現実に存在する応募フォームは一つしかない。頭の中にはそこから分岐した未来を何十本でも作れる。オープンキャパの配属先として未確定の未来が強すぎる。
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Written by stilloperable
GlassRoom
ToBeAlive Project
































