アイドルになりたいと思ったことはなかった
人前に出るのが得意な人とか 自分のことをちゃんと可愛いと思えてる人とか そういう人がなるものだと思ってた
私はたぶんそっちじゃない
大人数だと聞いてる方が多い
知らない人と話すのも得意じゃないし 写真を撮られるとどこを見ればいいのか分からなくなる
大人しいとか人見知りとか 昔から何度か言われてきたから たぶんそうなんだと思ってた
だから募集を見つけた日も一度閉じた
自分には関係ないと思った
なのに次の日また開いて 年齢だけ見た
入ってた
活動場所も見た
通えなくはなかった
未経験でもいいらしい
そこまで確認してまた閉じた
応募するつもりはなかった
ただ少し気になっただけだった
数日経って 締切の日だけ覚えてることに気づいた
写真って何を送るんだろうと思った
家の壁で撮るのかな
友達に頼んだら何て言えばいいんだろう
そこまで考えてから 受けないのにと思った
もし受かったら
家族に何て言うんだろう
学校とか仕事はどうするんだろう
知ってる人に見つかったら
自分だけ振りが遅かったら
ライブで誰も自分のところに来なかったら
まだ応募もしてないのに そこだけは考えられた
逆に 受かったあとの帰り道だけ妙に普通に想像できた
レッスンが終わって 少し疲れてて バッグの中に着替えが入ってる
電車の窓にはいつもの自分が映ってる
昨日までと同じ顔だった
締切の前の日 白い壁の前で写真を撮った
何枚撮っても変な気がした
その中に一枚だけ これなら送ってもいいかもしれないと思うのがあった
可愛いとは思わなかった
ただ これなら大丈夫かもしれないと思った
送った
数日後 知らない件名のメールが来た
通過と書いてあった
最初に出たのは嬉しいじゃなくて どうしようだった
会場に行くと 自分より可愛い子ばかりに見えた
よく喋る子もいた
ちゃんと理由を持って来てるようにも見えた
どうして応募したんですかと聞かれた
少し考えて
なんとなく気になって
と答えた
帰りの電車で もっとちゃんとしたことを言えばよかったと思った
たぶん落ちたと思った
受かった
最初のレッスンでは本当に自分だけ少し遅れた
右
左
次
隣を見るともう次へ行ってた
帰ってから動画を見た
一回だけ見るつもりだった
同じところを何度も戻した
できない
もう一回
少しできた
誰にも言わなかったけど嬉しかった
初めて衣装を着た日も 似合ってるのか分からなかった
自分なら選ばない色だった
写真を撮られて 後から公開された
その下に
可愛い
と書かれてた
最初は誰のことか分からなかった
自分だった
初ライブの日は客席を見る余裕なんてほとんどなかった
振りを間違えないことばかり考えてた
それでも一度だけ顔を上げた
知らない人と目が合った
その人が自分の名前を呼んだ
ライブのあと その人が来た
向こうも少し緊張してた
何を話せばいいのか分からなかったから 来てくれてありがとうございますと言った
また来ます
と言われた
次のライブ
本当に来た
今度は自分が先に見つけた
少しだけ笑った
それだけのことが 思ってたより嬉しかった
帰りの電車ではまたいつもの服を着てた
明日になればいつもの場所へ行く
大人数になったらたぶんまた聞いてる方が多い
別人になったわけじゃない
急に自信がついたわけでもない
自分を可愛いと思えるようになったわけでもない
ただ 次のライブまであと六日あった
長いなと思った
家に帰って今日の動画を見た
振りが少し遅かった
曲を戻した
もう一回































