将来やりたいことがない高校生へ。「何になりたい?」という質問が雑すぎる

将来やりたいことがない。進路が決まらない。何になりたいかわからない。そんな高校生に足りないのは、本当に「夢」なのか。職業名では答えられない自分と、進路の質問そのものを考える。

「将来やりたいことがない」「進路が決まらない」「何になりたいかわからない」。こう検索すると、自己分析、適職診断、好きなことの見つけ方が出てくる。答えられない原因は自分の中にあって、もっと自分を調べれば、どこかから職業名が出てくることになっている。

でも、その前提から疑ったほうがいい。そもそも「何になりたい?」は、人について聞く質問としてかなり粗い。

目次

進路の話になると、急に名詞を要求される

普段は職業名の形で生活していない。友達から写真が送られてくると、ほとんど同じに見える20枚から一番いい一枚を選ぶ。出かけるとなれば、頼まれていないのに店と電車を調べる。文化祭の画像を作れば文字の位置が気になる。推しのライブでは衣装や照明ばかり見てしまう。TikTokは撮るより編集している時間のほうが長い。友達から長文が届けば、話を整理して返す。

毎日の中では、かなり具体的なことをしている。それなのに進路面談へ入った瞬間、「美容師」「教師」「デザイナー」「会社員」「公務員」のような名詞を求められる。選ぶ、探す、比較する、直す、並べる、聞く、調べる、編集する。こちらのほうが実際の自分に近いのに、進路希望調査には書く場所がない。

書く場所がない情報は提出するときに落ちる。そのあとに残った空欄を見て、「私にはやりたいことがない」と読む。

「美容が好き」と言った瞬間、消えるものがある

同じコスメが好きな三人でも、一人は自分の顔で色を試すのが好きで、一人は友達に似合うものを選ぶのが好きで、もう一人は広告やパッケージを保存しているかもしれない。「美容が好き」で三人をまとめることはできる。ただ、まとめるほど三人の違いは見えなくなる。そこからさらに「美容系の仕事」とまとめれば、実際に何をしている時間が好きなのかはほとんど残らない。

音楽が好き、服が好き、ゲームが好き、韓国が好き、アイドルが好き、絵が好き、カフェが好き。こうした言葉も同じで、何が好きかは分かっても、その中のどこを見ているかまでは分からない。アイドルが好きな人が全員ステージに立ちたいわけではない。曲を探す人、衣装を見る人、写真を保存する人、ライブの構成を覚えている人、SNSの数字を追う人、ファン同士の空気を見ている人がいる。同じものを好きでも、やっていることはかなり違う。

「好きなことから将来を考えよう」がうまく機能しない人がいるのは、好きなものが見つかっていないからとは限らない。「好き」という単位が大きすぎて、その中にある差が消えていることがある。

仕事は、職業名の形では進んでいない

「デザイナー」という仕事を一日中している人はいない。実際には、見る、調べる、選ぶ、配置する、作る、説明する、直す、といった作業を繰り返している。「美容師」も、切るだけではなく、希望を聞く、提案する、薬剤を扱う、予約を確認する、片づける、人と話す、といった時間を含んでいる。

職業名は、大量の異なる作業を一つにまとめるためにつけられた名前だ。

厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」でも、仕事は職業名だけで扱われていない。「タスク」という単位で仕事に含まれる作業を分解し、そのタスクから職業を探せるようになっている。働くことを調べるための公的なデータベースでは仕事を細かく分けているのに、これから進路を決める高校生には「何になりたい?」と一語で聞く。

高校生側の答えが曖昧なのではなく、質問側が大量の情報を一語に圧縮しすぎている場合がある。

知らない職業は、やりたい職業になれない

もう一つ、「将来やりたいことがない」という言葉には見えにくい問題がある。知らない職業を志望することはできない。名前を知らない。存在を知らない。何をしているのか知らない。そういう仕事は嫌いなのではなく、自分の選択肢に一度も現れていない。

ところが進路を考えるときは、自分の頭の中にすでにある職業一覧を見て、その中に強く惹かれるものがないと「やりたいことがない」と判断しやすい。知っている職業が30個なら、30個を見て自分について結論を出すことになる。

音楽アプリに知っている曲が30曲しか入っていない状態で、その30曲から好きな曲を選べなかったとしても、「私は音楽が好きではない」とまでは判断しない。まだ聴いていない曲が大量にあることを知っているからだ。

仕事については、知らないものがどれだけ残っているのかさえ見えない。

「自分のことがわからない」の中には、かなり具体的な情報がある

大人数は疲れる。一対一なら話せる。ゼロから作るより、できたものを直すほうが好き。買い物そのものより比較している時間が長い。電話は嫌いだけれど文章なら説明できる。締切がないと動けないのに、締切が決まると集中する。誰かに見せる予定のない画像を延々と編集できる。店を予約するときだけレビューを何十件も読む。

これだけ分かっている人でも、「将来何になりたい?」には答えられないことがある。自分について知らないからではない。知っていることの形と、回答として要求されている形が違う。

学校には国語、数学、英語の点数がある。部活名がある。文系と理系がある。進路では学校名、学部名、職業名を書く。その間にある「何を見ると細かくなるか」「何なら勝手に調べるか」「何を何時間やると嫌になるか」「何を頼まれると意外と集中するか」には正式な欄がほとんどない。

欄がない情報は、持っていても持っていないように見える。

同じ「将来やりたいことがない」でも、中身は同じではない

本当に今は何も浮かばない人がいる。興味のあるものを仕事にしたくない人もいる。働くことより先に考えたいことがある人もいる。知っている職業の中から選べない人もいる。そして、職業名では何も答えられないのに、好きな作業と嫌いな作業ならかなり答えられる人もいる。

検索窓では、これらが全部「将来やりたいことがない」になる。

だから「好きなことを見つけよう」という答えが合わない人が出てくる。すでに好きなものはあるかもしれない。「もっと自己分析しよう」も同じで、自分について考えていないとは限らない。職業という大きな単位で質問されたから、その大きさでは答えが存在しないだけかもしれない。

職業を探す前に、職業を壊して見る

厚生労働省のjob tagには「タスクで検索」がある。職業名を決めてから仕事内容を読むのではなく、仕事に含まれる具体的な作業から、それを含む職業へ逆向きに辿れる。

厚生労働省 job tag「タスクで検索」で仕事の中身から職業を見る

ここで重要なのは、適職を判定してもらうことではない。自分が知っている作業から、自分が知らなかった職業へ行けることだ。「文章を直す」「情報を集める」「人の希望を聞く」「商品を並べる」「画像を加工する」。どれも将来の夢には見えない。でも、仕事を細かく分解すれば、それを毎日やっている職業が見つかる。

将来について考えるとき、自分の中から職業名を発掘するものだと思っていた。でも、自分の中に最初から職業名が入っている必要はない。職業名は自分を説明する言葉ではなく、社会の側が仕事を整理するためにつけた名前だからだ。

進路希望調査の空欄は、誰の空欄なのか

「将来の夢」という欄に何も書けないと、書けない本人の中に何かが足りないように見える。周りが看護師、保育士、教師、公務員と書いていれば、その感じはさらに強くなる。

でも、その欄には最初から入らない情報がある。友達の写真を選ぶのに一時間使うこと。店を探し始めると検索が止まらなくなること。人前で話すのは嫌なのに、誰かに教えるのは嫌いではないこと。完成したものを見ると直したい場所が先に見えること。知らない曲を探すのが好きなこと。何かを作るより、並べ方を考えている時間のほうが長いこと。

それらは職業名ではないから、進路希望調査には書けない。書けないものを落としてから空欄だけを見ると、「やりたいことがない」という説明が完成する。

でも、空欄なのは本当に本人なんだろうか。

まだ職業名になっていない情報を、職業名で提出できない。それを「将来やりたいことがない」と呼んでいる場合がある。

進路では、自分を何度も一語にする。文系。理系。志望学部。志望校。職業。夢。どこかでは選ばなければならないし、選択によって変わることもある。ただ、選ぶために使う分類と、自分そのものを同じ大きさにする必要はない。

職業名は、大量の作業をまとめて呼ぶためにつけられた仕事側の名前だ。

だから「何になりたいかわからない」とき、自分の中だけを調べ続けても答えが出ないことがある。

答えがないのではなく、質問のほうが自分より粗いことがある。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

Author

stilloperable
個人ブログ。インターネット、仕事、学校、アイドル、まだ名前のついていない仕組みについて書いています。現在、GlassRoomというアイドルプロジェクトを準備中。

目次