SmartPassでトイレに行けない理由が自分の画面には出てこない。

「SmartPass(Raptor SmartPass)のEncounter PreventionとDetected Encounters。授業中のトイレや廊下への移動を別の生徒のパスが止めるとき、学校の画面では何が起きているのか。
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stilloperable / GlassRoom

SmartPassでトイレに行けない。理由は、自分の画面には出てこない。

SmartPassは、授業中にトイレや保健室へ行くときに使う 学校向けのデジタルホールパスだ。

先生から紙の許可証をもらう代わりに、 端末で行き先を選び、 パスを開始して教室を出る。

その中に Encounter Prevention という機能がある。

特定の生徒同士を同じグループに登録すると、 一人がパスを使っているあいだ、 もう一人は新しいパスを開始できない。

トイレへ行こうとして、 ボタンを押す。

動かない。

原因は、 自分の利用回数でも、 先生の判断でも、 トイレの混雑でもない。

学校のどこかを歩いている、 別の生徒だ。

その生徒の名前は、 自分の画面には出ない。

授業中にトイレへ行きたくなる。

SmartPassを開く。

行き先を選ぶ。

パスを開始しようとすると、 画面にはこう出る。

Sorry, you can’t start your pass right now.

いまは開始できない。

それだけだ。

誰が原因なのかは書かれていない。

自分が誰と Encounter Prevention に入っているのかも見えない。

同じグループにいるAが、 すでに廊下へ出ていたとする。

二分後、 Bがトイレへ行こうとする。

Aのパスがまだ有効なら、 Bのパスは始まらない。

Aが教室へ戻る。

パスを終了する。

Bがもう一度、 同じボタンを押す。

今度は通る。

Bの名前も、 授業も、 行き先も変わっていない。

二回の操作のあいだに変わったのは、 一つだけだ。

Aがまだ廊下にいるかどうか。

Aが廊下にいるという情報は、 Aだけのために使われているわけではない。

Aのパスが有効であることが、 そのままBの操作条件になる。

AはBの端末に触れていない。

BもAの名前を入力していない。

それでも、 Aが教室の外にいる数分間だけ、 Bには開始できないパスが生まれる。

管理する側の画面では、 二人が同じEncounter Preventionグループに 入っていることが見える。

生徒側では、 相手が見えない。

同じ処理について、 片方の画面には 「誰と誰を組み合わせたか」 がある。

もう片方の画面には、 「開始できない」 という結果だけがある。

だから 「開始できません」 と表示されても、 自分について何を直せばいいのか分からないことがある。

直すものが、 自分の側には存在しないからだ。

では、 その二人はどうやって 同じグループに入るのか。

SmartPassには Detected Encounters という管理機能もある。

過去一週間のパスから、 行き先や時間が重なっている生徒の組み合わせを確認できる。

月曜日。

Aが十時十四分から二階へ出ていた。

Bは十時十六分から二階へ出ていた。

水曜日にも近い時間がある。

金曜日にもある。

最初はAのパスとBのパスとして 別々に保存されていた移動が、 あとから同じ画面に並ぶ。

二人の時間が重なったからといって、 実際に会っていたとは限らない。

同じ階でも、 目的地が違うかもしれない。

二分ずれていて、 一度もすれ違っていないかもしれない。

Detected Encountersが示すのは、 遭遇そのものではない。

遭遇した可能性のある、 組み合わせだ。

その一覧を見て、 本当に対応が必要なのかを学校側が確認する。

必要だと判断されれば、 二人をEncounter Preventionへ追加できる。

ここで起きているのは、 移動の記録が そのまま制限になることではない。

間に一度、 人の判断が入る。

AとBのパスが何度か重なった。

二人を同時に廊下へ出さない方がいい。

誰かがそう判断する。

二人の名前が Encounter Prevention に入る。

そこまで設定されれば、 次の授業から その人が二人を見張り続ける必要はない。

判断は、 ソフトウェアの条件になる。

翌週の月曜日。

Aが十時十四分に パスを開始する。

十時十六分。

Bがトイレへ行こうとする。

先週なら、 二人の移動は 重なったあとで記録されていた。

今週は違う。

重なる前に、 Bのパスが止まる。

先週まで 「二つの移動」 として保存されていた組み合わせが、

今週からは 「二つ目の移動を起こさないための条件」 として動く。

記録が、 制限になる。

ただし、 本人たちの関係が変わる速さと、 システムの設定が変わる速さは同じではない。

昨日話したか。

もう気にしていないか。

学校ではほとんど会わなくなったか。

そういうことが変わっても、 Encounter Preventionの設定が変更されなければ、 処理は続く。

本人たちの中にいる二人と、 管理画面の中にいる二人。

同じ二人なのに、 同じ時間では動いていない。

SmartPassは、 Encounter Preventionが作動した回数も記録する。

Aがパスを使っているあいだに、 Bが新しいパスを開始しようとする。

止められる。

その一回が prevented encounter としてログに残る。

管理画面では、 グループの横にある赤い八角形の数字から、 そのグループで何回遭遇が防止されたか確認できる。

ただし、 この数字が示しているものは 少し扱いにくい。

記録されているのは、 AとBが廊下で会ったことではない。

BがAに会おうとしたことでもない。

Bはただ、 トイレへ行きたかっただけかもしれない。

分かるのは一つだけだ。

Aのパスが有効な時間に、 Bが新しいパスを作ろうとして、 設定によって開始されなかった。

現実の廊下だけを見ていたら、 その場面は存在しない。

Aは廊下にいる。

Bは教室に残る。

二人はすれ違わない。

会話もしない。

同じ場所にいた写真も残らない。

Encounter Preventionが予定通り動くほど、 廊下では何も起きない。

それでも管理画面では、

「何も起きなかった」

と、

「システムが止めたので起きなかった」

を分けることができる。

AとBがたまたま別々の時間にトイレへ行った日には、 prevented encounterは増えない。

Aが外にいるあいだに Bがパスを作ろうとして止められた日には、 数字が増える。

現実だけを見れば、 どちらの日も二人は会っていない。

でも、 ソフトウェアは その二つを同じものとして扱わない。

学校の記録は、 起きたことを残すものが多い。

出席した。

遅刻した。

教室を出た。

戻った。

SmartPassでは、 その手前にも数字ができる。

開始されなかったパス。

実現しなかった同時刻の移動。

廊下には現れなかった二人。

Aは教室へ戻る。

Bはそのあとトイレへ行く。

二人はその時間、 同じ廊下にいなかった。

管理画面では、 赤い八角形の中の数字が 一つ増える。

ここまで読んで、 変だと思ったなら、

その感覚は、 どこにも記録されていない。

SmartPassには残らない。

学校の管理画面にも残らない。

「なんか嫌だ」

「これ、 誰が決めてるんだろう」

「別に悪いことしてないのに」

そう思って画面を閉じても、 ログにはならない。

記録されるものと、 記録されないものがある。

廊下に出た時間は残る。

出られなかった回数も残る。

でも、 そのとき何を考えていたかは残らない。

誰を嫌いだったか。

誰を好きだったか。

先生に言わなかったこと。

友達にも言わなかったこと。

トイレに行きたいふりをして、 本当は三分だけ 教室から消えたかったこと。

授業中、 窓の外を見ていたこと。

放課後、 何でもない廊下が 急にきれいに見えたこと。

誰にも説明できないまま、 ずっと残っていること。

そういうものには、 赤い八角形がない。

だから、 こっちは別の記録をつくる。

写真。

映像。

声。

音。

書いたもの。

会話。

まだ名前のついていないもの。

管理画面には載らなかった方を、 残す。

GlassRoom

GlassRoomは、 見えなかったものを残すための場所です。

自分の周りにあるものを見て、

ちょっと変だと思う。

なんでだろうと思う。

誰かの説明だけでは 足りないと思う。

その続きを、 自分の側からつくる。

写真でもいい。

映像でもいい。

言葉でもいい。

音でもいい。

まだ、 何になるのか分からなくてもいい。

SmartPassでは、 行き先を選んでから 外へ出る。

GlassRoomでは、 行き先を決めなくていい。

先に、 見てみる。

残してみる。

そのあとで、 それが何だったのかを考える。

DESTINATION

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Author

stilloperable
個人ブログ。インターネット、仕事、学校、アイドル、まだ名前のついていない仕組みについて書いています。現在、GlassRoomというアイドルプロジェクトを準備中。

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